海外競馬発売
ロッキー山脈西麓に広がる広大な土地、そして年中降り注ぐ太陽の光を背景として、今も米国の重要な農業地帯であるカリフォルニア州では、フェア(fair)またはフェアグラウンド(fairground)と呼ばれる公共施設が農作物流通のための重要な役割を担ってきた。共進会、博覧会などの和訳よりも「青空市場」と邦訳した方がわかりやすいだろう。そのフェアは特に農作物の収穫が始まる夏以降に多くの人を集め、当然それに付随する様々な関連行事が行われるようになる。同州南端の中心地で隣国メキシコとの交流も盛んなサンディエゴでは、1936年に同地区北郊デルマーの広大な土地にサンディエゴ郡フェアが開設された。そして、その翌年1937年に同地内にデルマー競馬場が産声を上げたのである。
さて、東部州で競馬が徐々に市民権を得るのに同調し、当初賭博の対象として扱われていた競馬も徐々にスポーツや社交としての側面も持つようになり、1851年にはサンフランシスコに同州として初めての競馬場が開設された。その後、1909年に承認された競馬賭博禁止法案はレース開催を認めるものの、馬券発売を禁止してサラブレッド界に大きな打撃を与えた。しかし、そうした中でデルマー競馬を支えた人々は国境を越え、メキシコ・ティフィナにあるアグアカリエンテ競馬場で過ごすようになった。豪州の歴史的名馬の1頭ファーラップの西海岸遠征がメキシコだったのはこうした理由がある。
ハリウッドスターの一人で馬主でもあったビング・グロスビーもメキシコ競馬を満喫した一人で、上述の通り1936年のサンディエゴ郡フェアで競馬場開設の構想が固まると、財界の有力者や、各界の著名人の賛同を集めて現在も残るスペイン風コロニアル調のグランドスタンドを建設し、デルマーターフクラブを設立。サンディエゴから土地と施設のリース契約を取りまとめて本格的な競馬開催を行うようになり、デルマー開催は、北米夏季競馬の象徴であったサラトガ開催(ニューヨーク州)に匹敵する存在になった。このデルマーフェアグウランドでは年間300前後の行事を開催するため、以前から競馬は7月から約2カ月間のみ行われてきたのだが、ロサンゼルス近郊のハリウッドパーク競馬場閉鎖に伴う代替開催のために晩秋での競馬開催が認められ、ブリーダーズカップ開催招致に繋がっている。サンディエゴという街は、年間を通じて快適な気候で、地元住民はもちろん、ロサンゼルスからも毎週末多くの人々が余暇を楽しむために滞在する。デルマー競馬場はそうした人々の社交の場として、以前よりも増して人気のスポットとなっている。
最後に、カリフォルニア州のサラブレッド産業は少しずつ難しい局面に向かっている。2024年には北部のゴールデンゲート競馬場が閉鎖され、現役馬の舞台が減少していることもあり、関係者からデルマーの調教・競馬開催施設としての通年利用の期待が膨らんでいる。2024 年、2025年の連続開催となるブリーダーズカップは、地元社会へのメッセンジャーとしての責任も担う。
(文:吉田直哉)
(2024年10月現在)
デルマー競馬場での芝コース全長は4620フィート(1408メートル)で、メイン馬場(ダート)の内側に配置されている。ブリーダーズカップ創設時から行われているマイル(芝1600メートル)は、ホームストレッチ上の第4コーナー付近から発走となり、コースを1周回るというレイアウトである。
デルマー競馬場という施設は現在も州が所有する公共施設で、競馬事業体のものではない。そのため、競馬開催以外の期間は調教目的での利用が認められておらず、逆に言えば夏開催後に芝管理の十分な時間があり、良好な状態でレースを行える。
ブリーダーズカップ・マイルは長年欧州遠征馬が数多く挑戦し、特に平坦で比較的時計が早いレースを行っているフランスからはミエスクやゴルディコヴァといった名馬が優勝馬リストに名を連ねている。日欧に比べて小さいメイントラック、芝コースはさらにその内側に配置されているため、当然コーナーはタイトになり発走後は1コーナーまでの250メートルでの位置取りが、最初の鍵となる。地元カリフォルニア勢は前々の競馬をすることが多いが、欧州勢は先頭に離され過ぎずに中団待機し、短い最後の直線を考慮して早めに仕掛けるパターンが多くなる。展開は終始早く、騎手の技量の良し悪しが他のカテゴリー以上に問われるコースと言えるだろう。
(文:吉田直哉)
(2024年10月現在)
通年雨量が少なく乾燥気味の気候を考慮し、バミューダグラスを敷き詰めたデルマー競馬場の芝コースはメインのダート馬場の内側に設置されている。この芝コースのもう一つの特徴は、ホームストレッチの中間地点付近から内馬場側へ引込み線が敷かれた1700メートルおよび1800メートル芝のコーレイアウトを持つことだ。2017年に初めて同場でブリーダーズカップが開催された時は、この引込み線コースを使用していたが、現在ブリーダーズカップ・フィリー&メアターフ(芝2200メートル)は、向正面の中間地点から発走して1周半を回りゴールとなる。発走後すぐに第3コーナーへ入るため、位置取りに注意する必要がある。そしてもうひとつのポイントは第4コーナーからゴールまでが817フィート(249メートル)と短いため、どこから追い始めるかというのもひとつのもう一つの重要なポイントとなる。
(文:吉田直哉)
(2024年10月現在)
向正面の中間地点から発走するブリーダーズカップ・フィリー&メアターフ(芝2200メートル)とは異なり、ブリーダーズカップ・ターフ(芝2400メートル)は第2コーナーからの発走となるため、日欧に比較して短いとはいえ、スタート直後に向正面を丸々使うことができる。欧州のレースであれば、馬群が一団となって進むことが多いが、毎年多くの欧州馬が転厩するようになった米国では、芝レースのレベルが上がり、移籍馬を含めて前々の競馬をするケースが増えてきている。日欧からの遠征馬が先頭との距離をどれくらいに保ってレースを進めるかというのも、デルマー・芝2400メートルを観戦する面白みのひとつだろう。北米所属の芝馬にとっても、ブリーダーズカップ・ターフは秋の大目標のひとつであることから多頭数が見込まれる。シンプルなレイアウトの芝2400メートルだが、馬と騎手の我慢強さが問われるコース設計と換言できるかもしれない。
(文:吉田直哉)
(2024年10月現在)
デルマー競馬場のメイン馬場(ダート)の全長は5280フィート(1609メートル)。米国英語では1600メートル以上でコースを1周走る距離を「ツーターン(two turn)」と呼ぶのだが、同場でのブリーダーズカップ・クラシックで採用されるダート2000メートルは、そのツーターンをフルに使って行われる。発走は4コーナーに設置された短めのシュートからで、ホームおよびバックストレッチを合計3回走ってゴールを目指す。
冒頭で述べたコース全長距離1609メートルは同国の他の主要競馬場とほぼ同規模だ。しかし、コーナーがややゆったりと設定されており、そのため4コーナーからゴールまでは919フィート(280メートル)とやや短めだ。参考までにケンタッキーダービー開催地のチャーチルダウンズ競馬場では1234フィート(376メートル)ある。つまり、2000メートルを走る際、第1から第2、そして第3から第4コーナーで内外どちらの位置を取るか、そして有力馬との距離をどれだけ取るかということが重要になる。北米の競馬場はすべて類似した馬場レイアウトを持つが、そんな中でも「デルマー巧者」という表現が使われるのは、人気薄でも内ラチ沿いを巧みに進んで知らぬ合間に他馬との距離を付けられる要素を含んでいるからだろう。
デルマー競馬場があるサンディエゴ地区は年間を通じて天候が安定し雨量も少ない。しかし、時に海から湿った風が流れ込み、その時の馬場管理時の匙加減によっては通常よりも馬場が重くなるのではと指摘されることもある。レース当日の傾向をいち早く掴んでおくこともデルマーのダート2000メートルでは必要だ。
(文:吉田直哉)
(2024年10月現在)