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アスコット競馬場はイギリス王室が所有する競馬場。首都ロンドンから西に直線距離で40キロメートルほどのところにあり、最寄りの駅までは電車で約1時間。そこから徒歩10分弱ほどで競馬場に到着する。
現在の競馬場は2億2000万ポンド(当時のレートで約420億円)もの巨費を投じて、18か月にも及ぶ改修工事を行い、2006年6月に再オープンしたもの。スタイリッシュなスタンドが造られたほか、コースにも手が入り、最後の直線を含む直線コースの移動や整地を伴った改修が行われた。
この場所で競馬を始めたのは1702年に即位したアン女王。居城であったウィンザー城の周辺を馬に乗って散策していたアン女王が「馬を全力疾走させるのにふさわしい」場所として見つけたのが、現在のアスコット競馬場となっているエリアで、1711年8月11日に記念すべき最初のレースが開催された(障害競馬は1965年が最初)。なお、現在アスコット競馬場で芝1600メートルのG1として行われているクイーンアンSは、競馬場を創設したアン女王の名を冠したものだ。
アスコット競馬場では、平地競馬が18日間(4月から10月)、障害競馬が8日間(1月から3月および10月から12月)の計26日間にわたって競馬が開催される(2022年の日程)。
そのうち、ハイライトとなるのは6月中旬に行われる「ロイヤルアスコット開催」で、中距離の重要レースであるプリンスオブウェールズS(G1・芝1990メートル)、伝統の長距離戦ゴールドカップ(G1・芝3990メートル)、それにエリザベス女王の即位70周年を記念して、2022年に名称変更となったプラチナムジュビリーS(芝1200メートル、前ダイヤモンドジュビリーS)など8つのG1を含む計19の重賞が火曜日から土曜日の連続5日間で行われる。例年計30万人ほどの観客が集まるイギリスを代表するスポーツイベントとなっており、華やかに着飾った紳士淑女が集まることから「1年のファッションはロイヤルアスコットで決まる」ともいわれている。
そのほか、7月下旬に行われ、欧州上半期の中長距離王を決めるキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(G1・芝2390メートル)、10月中旬の「英チャンピオンズデー」が主な開催。英チャンピオンズデーはイギリス競馬を締めくくる開催として2011年に誕生したもので、英中距離の大一番英チャンピオンS(G1・芝1990メートル)、マイルのチャンピオンを決めるクイーンエリザベスⅡ世S(G1・芝1600メートル)など4つのG1を含む5つの重賞が1日で行われる。
競馬場は芝コースのみ。おむすび型の右回り1周14ハロン(2800メートル)の周回コースに1つのシュートと1つの直線コースが伸びる形で、最後の直線は約500メートルとなっている。
周回コースは非常にタフなコースとして知られており、その高低差は約20メートル。これは凱旋門賞(G1・フランス)の行われるパリロンシャン競馬場の約2倍で、日本で最も高低差のある中山競馬場と比べても約4倍という厳しさ。最後の直線も残り1ハロン(200メートル)辺りまでは上り坂が続いている。
文:秋山 響(TPC)
(2022年6月現在)
プリンスオブウェールズS(G1・イギリス)が行われるアスコット競馬場の芝1990メートル(9ハロン212ヤード)は、おむすび型をした周回コース(メイントラック)の左上にある直線の半ばあたりからのスタート。ここから右回りにコーナーを2度回り、最後の直線(約500メートル)に向いてゴールというのが大まかな流れになる。
芝1990メートルのレースにおけるひとつ目のポイントは、スタートから最初のコーナーへの入り方。この辺りは下り坂となっているため、最初のコーナーまでの間に先手を奪おうとしたり、あるいは前めの位置を取りに行こうとしたりする際に、スピードに乗りすぎてしまい、コントロールが難しくなるというパターンが目立つ。まずはスタート直後の折り合いが重要になる。
ふたつ目のポイントとして挙げたいのは、レースの多くの部分を占める上り坂。芝1990メートルのコースは上記したようにスタートからしばらくは下り坂となっているのだが、“スウィンリーボトム”と呼ばれるおむすび型の頂点(最初のコーナー)を過ぎて次の直線(オールドマイルコース)に入ると、一転して上り坂が残り200メートル辺りまで延々と続いており、しかもその高低差は約20メートルという厳しさ。スピードはもちろんだが、スタミナ、そして坂をものともしないパワーも問われる。
コースレコードは2014年のプリンスオブウェールズSでザフューグが記録した2分01秒90。6月のイギリスは晴れる日が多く、プリンスオブウェールズSも良馬場での開催が多いが、過去10年で重馬場となった2016年と2019年の勝ちタイムはそれぞれ2分11秒38と2分10秒25。雨が降った場合は、非常にタフなレースになる。
文:秋山 響
(2022年6月現在)
キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(G1・イギリス)が行われるアスコット競馬場の芝2390メートル(芝11ハロン211ヤード)は、おむすび型をした周回コース(メイントラック)の左上にある直線に少し入った辺り(コース図では左下)からのスタート。ここから右回りにコーナーを2度回り、最後の直線(約500メートル)に向いてゴールというのが大まかな流れになる。
芝2390メートルのレースにおける大きなポイントは2つ。
まず1つ目は、スタートから最初のコーナー(“スウィンリーボトム”と呼ばれるおむすび型の頂点)までの約800メートルで約22メートルも下る坂。プリンスオブウェールズS(G1・イギリス)が行われる芝1990メートル(9ハロン212ヤード)よりは最初のコーナーまでの距離が長いため、ポジション争いが激化する率は下がるものの、ここでスピードに乗りすぎてしまい、コントロールが難しくなるというパターンは目立つ。まずはスタート直後の折り合いが重要になる。
2つ目のポイントは、“スウィンリーボトム”を過ぎて、次の直線(オールドマイルコース)に入ると、今度は一転して上り坂が残り200メートル辺りまで延々と続くという点。その高低差は20メートルに迫ろうかという厳しさで、スピードはもちろんだが、スタミナ、そして坂をものともしないパワーも問われる。
コースレコードは2013年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSでノヴェリストが記録した2分24秒60。良馬場であれば速い時計も記録されるが、雨で馬場が悪化すると非常にタフなコースとなり、例えば雨中(馬場状態は稍重発表)で行われた2017年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSでは2分36秒22というコースレコードから10秒以上も遅い勝ちタイムとなった(勝ち馬エネイブル)。
文:秋山 響(TPC)
(2019年7月現在)