世界での戦い香港で、アメリカで数々のG1を制覇

日本のリーディングジョッキーになる=ゴールではない 日本馬の海外遠征で味わう『チーム・ジャパン』の連帯感が好きです

福永 祐一 元騎手(現調教師)Yuuichi Fukunaga

1976年生まれ、父は元騎手の福永洋一。競馬学校を第12期生として卒業後、1996年にデビュー。プリモディーネでの桜花賞(1999年)をはじめエピファネイアでの菊花賞(2013年)など、数々の名馬でGI を制覇。また、エイシンプレストンの香港マイル(2001年)やジャスタウェイのドバイデューティフリー(2014年)など、海外での大レース勝ちも多数。2011年、2013年には全国リーディングを獲得。

  • デビューした年に香港の国際レースで騎乗

    僕はデビューしたその年(1996年)の暮れに、香港の国際レースで乗せてもらっているんです。日本から遠征したシーズグレイスという牝馬で、香港カップに出走しました。当時はG2でしたけど、後にG1になるような大レースです。

    その馬を管理していた森秀行調教師には、他にも地方競馬のレースなど早くからいろいろな舞台で乗せていただきました。どれも大事なレースなのに、技術的にまだ未熟な新人騎手に手綱を任せてもらえて、今考えれば本当に貴重な経験になったと感謝しています。だってもし僕が依頼する側だったら、やっぱり経験豊富な騎手に頼みたくなりますよ。

    その香港のレースでは、結果は9着でしたが、いいスタートを切って前の方で積極的にレースを進められて、ずいぶん自信になりました。そういう経験を早くからできたのはすごいことだったというのが、後になってわかってきました。

  • 香港、アメリカ、UAEと世界中でG1勝ち

    その後も、海外のレースに挑戦する日本の馬にはずいぶんと乗せていただきました。エイシンプレストンでは香港のG1を3つも勝てましたし、シーザリオのアメリカンオークスやジャスタウェイのドバイデューティフリーなど、いい思い出はたくさんあります。もちろん悔しかったことはそれ以上にあります。2014年にはジャスタウェイで初めて凱旋門賞に乗りましたが、8着という結果以上に自分の騎乗はまだまだ甘いと痛感させられました。経験の差もあったし、一発勝負の難しさも感じましたね。

    日本の馬で海外に遠征すること自体は、僕はすごく好きです。騎手はレースの直前に行ってレースだけ乗るやり方もありますが、僕は馬と厩(きゅう)舎スタッフといっしょに何日も前から現地に入って調整するのが好きなんです。スタッフと毎日食事をして、いろいろな話をして。香港でもアメリカでもそうでしたし、それで結果が出ると最高の気分です。遠征している他の日本馬も、レースではライバルですが、それ以外では「チーム・ジャパン」という連帯感が生まれるんです。あれは海外遠征の醍醐味ですね。

    • 2014年 凱旋門賞 ジャスタウェイ

      2014年 凱旋門賞 ジャスタウェイ

    • 2005年 アメリカン・オークス シーザリオ

      2005年 アメリカン・オークス シーザリオ

  • アメリカへ武者修行に

    2012年の夏に約2か月間、アメリカの西海岸で乗りました。武者修行みたいな感じです。以前から、日本である程度結果を出せたら行きたいと思っていたんです。この前の年にリーディングジョッキーを獲れて、そのタイミングでお話をいただいたので決断しました。

    アメリカでの騎乗は刺激になりました。いきなり行ってすぐに良い馬に乗れるほど甘くはなく、結果は2か月で1勝に終わりましたけど、自分なりに手応えはありましたし、乗り方の幅も広げることができました。

    出発するとき、日本ではリーディングのトップに立っていたので、不在にするのはもったいないのでは、とも言われました。でも、僕自身はまったくそういうためらいはありませんでした。いまや海外のトップジョッキーが短期免許でどんどん日本にやって来て、1年間の数字とはまた別に、彼らと比べられるような時代。もう“日本のリーディング=ゴール”ではないと僕は思っています。僕自身、どのレースを勝ちたいとか何勝したいかという以上に、ひと鞍ひと鞍、騎乗の質を高めたいという気持ちが大きくなっています。

  • デビューしたての新人が、いきなりライアン・ムーアと乗れる時代

    ライアン・ムーア騎手

    ライアン・ムーア騎手

    それにしても、今の日本の若い騎手は幸せだと思います。だってデビューしたての新人が、いきなり短期免許で日本に騎乗に来たりしているライアン・ムーア(誰もが世界最高峰の騎手の1人と認めるイギリスのトップジョッキー)といっしょに乗れるんですから。僕の若い頃には、そんな機会はワールドスーパージョッキーズシリーズ(現:ワールドオールスタージョッキーズ)に出場するか、ジャパンカップに乗るか、そうじゃなければ海外遠征する馬に乗せてもらうかしかなかったんですから。彼らの技術に同じレースで触れられるんだから、スキルアップはおのずと早くなるでしょう。

    でもそういう状況は、日本の競馬が世界のホースマンに認知されたからこそのもので、状況の変化に伴い、若い騎手の意識も変わってきて当然です。ダービージョッキーになりたい、というのが凱旋門賞ジョッキーになりたい、と変わっていくみたいに。僕らの若い頃に「夢」だったものは、いまや具体的な「目標」になっているんです。

  • 若い騎手志望者たちへ

    今後は、もしかしたら世界へ出て行くことだけが正解とは限らない時代になっていくような気がします。僕の予想では、これからはアジアの競馬が世界の中心になっていくんじゃないでしょうか。賞金の高いところに良いジョッキーは集まりますから。香港、中東、シンガポール、オーストラリア。韓国や中国にだって可能性はあります。もちろん日本がその中心に、つまり、さらに世界の競馬サーキットの中で重要な存在になっていければいいんですが。

    僕が若い方たちに言ってあげられることがあるとすれば、とにかくどの国でも、どんな舞台でも、しっかりとした技術を身につければどこでもやっていけるということです。もちろん、僕だって現役である以上、そこはまだまだ追い求めています。ぜひ、レースでいっしょに熱い競り合いをしましょう!

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