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オーストラリア競馬の概要

オーストラリア競馬の概要

南半球を代表する競馬大国

オーストラリアは南半球を代表する競馬大国である。その競馬熱は非常に高く、後述するレーシングオーストラリアによると、2022-2023年シーズンに平地及び障害競馬が行われた競馬場の数は325にも上る。

オーストラリアで最初の公式競馬が行われたのは1810年10月15日のこと。イギリス人のラックラン・マクォリー総督(植民地政府の責任者)の率いる第73連隊が主催し、現在のニューサウスウェールズ州シドニーのハイド・パークで行われたこの競馬には、当時の植民地住民の大半となる約1万1000人が詰めかけたという。

その後、ニューサウスウェールズ州では、レースに関する様々なルールの制定や、血統管理を行うなどして、同州における競馬の指導的役割を果たしていくことになるオーストラリアンジョッキークラブが1842年に誕生(1840年に結成されたオーストラリアンレースコミッティからの改編。現オーストラリアンターフクラブ)。1860年には現在のランドウィック競馬場を本拠地として競馬を行うようになり(ランドウィック競馬場がある場所では1833年からしばらくの間、定期的にレースが施行されていたが、馬場状態の悪化に伴ってやがて廃止。オーストラリアンジョッキークラブは設立後、シドニー郊外のホームブッシュで競馬を行っていた)、その翌年にはランドウィックダービーS(現在のオーストラリアンダービー)も創設された。

一方、ニューサウスウェールズ州とともに、現在のオーストラリアにおける2大競馬開催州となっているヴィクトリア州では、1838年に公式競馬がスタート。1840年に現在のフレミントン競馬場(当時はメルボルン競馬場という名称)での競馬が始まり、1861年には、後述するメルボルンカップが創設された。また、1864年には当時しのぎを削っていた2つの有力クラブ(ヴィクトリアターフクラブとヴィクトリアジョッキークラブ)が合併してヴィクトリアレーシングクラブが誕生。以降、ニューサウスウェールズ州におけるオーストラリアンジョッキークラブと同じような役割を担い、ヴィクトリア州の競馬の発展に大きく寄与してきた。

オーストラリアの競馬は8月1日に始まり、7月31日がシーズン最終日。競走馬は8月1日に加齢される。近年はオールウェザーでの開催も増えてきているが、それでもほとんどのレースは芝で行われている。

競馬は州ごとに統括されており、たとえばニューサウスウェールズ州ではレーシングニューサウスウェールズ、ヴィクトリア州ではレーシングヴィクトリアがそれぞれの州における統括団体となっている。全国的な組織としては、各州の統括団体の協議会として競馬の基本的な全国ルールを制定し、対外的にもオーストラリアを代表していたオーストラリアンレーシングボード、レースに関する様々な情報をとりまとめていたレーシングインフォメーションサービスオーストラリア、そして血統書を管理していたオーストラリアンスタッドブックが統合して2015年に誕生したレーシングオーストラリアがあり、オーストラリアの競馬をルールから血統情報まで包括的にまとめる役割を担っている。

オーストラリア競馬において、圧倒的な知名度と人気を誇るのは、レース当日が開催州であるヴィクトリア州の「祝日」に指定されるほどの盛り上がりを見せる、芝3200メートルのG1・メルボルンカップである。

ただし、このレースは現在のオーストラリアのレース体系においてはメインストリームから外れた存在。オーストラリアでは短距離のレースが非常に充実しており、レーシングオーストラリアの発表によると、オーストラリアでは2024-2025年シーズンに344の重賞(グループ)レースが行われる予定だが、その内、半数を超える188レースが1400メートル以下で組まれている(うちG1は30レース)のだ。

その象徴的な存在と言えるのが2歳のG1・ゴールデンスリッパーS(3月、ローズヒルガーデンズ競馬場、芝1200メートル)で、その総賞金は2歳戦としては世界一となる500万オーストラリアドル(約5億円、1オーストラリアドル=約100円で換算)。オーストラリアンダービー(G1)やヴィクトリアダービー(G1)といったオーストラリアを代表するダービーの2倍以上の高額賞金となっている。また、2017年には芝のレースとしては世界最高賞金(総賞金2000万オーストラリアドル=約20億円)を誇るジエベレスト(10月、ランドウィック競馬場、芝1200メートル)もスタートしている。

オーストラリアは、イギリスに遠征して勝利をつかんだダイヤモンドジュビリーSを含むG1・15勝を挙げ、25戦無敗のまま引退した名牝ブラックキャビアを筆頭に、香港スプリント(G1)連覇を含むデビュー17連勝を記録し、日本のスプリンターズS(GT)も制したサイレントウィットネス(オーストラリア産の香港調教馬)など短距離馬の強さで知られているが、その強さを支えているのは、短距離重視のレース体系にあると言えるだろう。

オーストラリアを代表する競馬開催としては、メルボルンカップを含む8つのG1を計4日間で行うヴィクトリア州の「メルボルンカップカーニバル(2024年は11月上旬、フレミントン競馬場)、ドンカスターマイル(芝1600メートル)やクイーンエリザベスS(芝2000メートル)を含め、2週続けての2日間で8つのG1を行うニューサウスウェールズ州の「ザチャンピオンシップス」(4月、ランドウィック競馬場)が特に知られており、それぞれの州の一大競馬イベントとなっている。また近年は前述したジエベレストに代表される高額賞金レースの創設が相次いでおり、2023年には日本から遠征したオオバンブルマイが2019年に誕生した4歳限定(日本での3歳は4歳として扱われる)の高額賞金レース(総賞金1000万オーストラリアドル=約10億円)であるゴールデンイーグル(11月、ローズヒルガーデンズ競馬場、芝1500メートル)を制したことも大きな話題となった。

オーストラリアは世界有数のサラブレッド生産大国でもある。国際競馬統括機関連盟によると2023年の生産頭数は1万2907頭(推定)で、アメリカの1万8500頭(推定)に次いで世界第2位。馬産の中心はニューサウスウェールズ州とヴィクトリア州で、この2州だけでオーストラリア全体の生産頭数の約70パーセントを占めている。シャトル種牡馬の供用も盛んで、全体の約12パーセントがシャトル種牡馬による交配となっている。

文:秋山 響(TPC)
(2024年10月現在)

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