ゴール前の激戦を制したのは「女王」エネイブル

7月25日にケンブリッジでイギリス史上観測2位となる38.1度を記録した2日前とは一転、最高気温が21.0度と少し肌寒い一日となったキングジョージデー。前夜に9.5ミリの雨に見舞われたアスコット競馬場の芝コースは前日の「GOOD TO FIRM（良）」から「GOOD TO SOFT（稍重）」へと悪化した。JRAのオッズで単勝1.2番、アスコット場内では1.53倍の支持を集めたエネイブルは一昨年のこのレース以降、7戦中4戦が道悪での戦い。1レースが始まる前に雨は上がっていたが、「雨女」が今回も大好きな雨雲を呼び寄せたかとも思わせた。

1レースの発走から約1時間半。天気によって出走を決めかねていた馬もスクラッチすることなく、11頭全てがパドックに姿を現した。周回を終えたエネイブルは、L.デットーリ騎手を背に10頭のライバルたちを見る形で、最後に馬場へ入ると、指笛が響き場内の熱気は最高潮に達した。

曇天の下、「史上最高のメンバー」ともうたわれた第69回キングジョージのゲートは開かれた。大きな出遅れはなく、ポンと出たのはエネイブル。しかし、徐々に位置取りを下げ、8番手の外に収まった。シュヴァルグラン（牡7歳、栗東・友道康夫厩舎）はさらにその後ろの9番手。クリスタルオーシャンは有力馬では最も前の4、5番手をキープした。

これまでスピードを武器にG1を連勝してきた最強牝馬が予想外の後方待機。
「（クリスタルオーシャンの背後となる）ブドー騎手の位置が欲しかったけど、エイダン（オブライエン調教師）の馬たちが前に行ってペースが速かったから後ろに下げました」
場内は少しざわついたが、先手を取ったノルウェーが刻んだ5ハロンは1分01秒66とヨーロッパ、稍重の馬場にしてはやや速めの流れ。デットーリ騎手はおそらく外を回すロスも考え、即座にプランを立てたのだろう。

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  クリスタルオーシャンとの激しい競り合いを制したエネイブルが優勝

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  パートナーの力走をたたえるデットーリ騎手

最終コーナー入り口で、外から迫るエネイブルとクリスタルオーシャンの距離がぐっと縮まり、ラスト1ハロン手前で2頭が抜け出した。その直後からヴァルトガイストも追い上げるが、差はなかなか詰まらない。イギリスの5歳2頭の一騎打ち。わずかにエネイブルが出ると、クリスタルオーシャンが内から差し返す。「Go! Enable! Go! Enable!」。きれいに着飾り、両手を握りしめた左隣の女性から「女王」への声援が聞こえてきた。前年比3%増の2万6406人が酔いしれたマッチレース。ラスト50メートルでエネイブルが再び、前に出るとクビ差で勝負が決した。

重圧から解放されたデットーリ騎手の表情が徐々に緩んでいく。
「国中のプレッシャーを背負っていました。何しろ2年間も負けていないですから。彼女はただの名牝ではなく、勝つことで勇気を見せてくれるんです。今日は自分自身のキャリアで、一番壮絶なレースでした。頭ひとつ抜け出して、突き抜けるかと思いましたが、クリスタルオーシャンが食らいついてきてタイタニックバトル（壮大な戦い）になりました。2頭の素晴らしいチャンピオンがいました」
48歳の名手は、週に2度会いに行くという最愛のエネイブルだけでなく、プリンスオブウェールズS（G1・イギリス）で自身が勝利に導いたクリスタルオーシャンもたたえた。

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  クビ差での敗戦に悔しさをにじませるクリスタルオーシャンの鞍上・ドイル騎手

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  歓喜の「フライングディスマウント」

一昨年に続くキングジョージ2勝目で、5歳牝馬による制覇は1969年のパークトップ以来。この勝利で11連勝を飾り、G1勝利数を「9」に伸ばした。
「“キングジョージ”の名にふさわしいレースでした。ベストオールドホースとベストフィリーがしのぎを削って、みんなが望む競馬になりました」
後方からのレースには驚いたというJ.ゴスデン調教師は胸をなで下ろしていた。

今後はインターナショナルS（8月21日。G1・イギリス。ヨーク競馬場。芝2050メートル）かヨークシャーオークス（8月22日、G1・イギリス。ヨーク競馬場。芝2370メートル）、そして凱旋門賞へ直行するプランを含めて、エネイブルの様子を見て決めるという。
「We are on the road to Longchamp now」（デットーリ騎手）
凱旋門賞（G1・フランス）3連覇への視界はさらに開けた。

3連勝でプリンスオブウェールズSを制したクリスタルオーシャンはエネイブルにクビ差迫り、充実のシーズンを送っている。
「今の私の気持ちは今日の天気みたいですよ。ラスト100メートルはすごくエキサイティングでした。“勝てそう、勝てそう”と思いましたけどね。でも、勇敢な馬。リスペクトしていますよ」

ウィットに富んだコメントでM.スタウト調教師は悔しさを表現した。

エネイブルから約2馬身差の3着となったヴァルトガイストのP.ブドー騎手は「馬場が緩かったですからね。でも、クリスタルオーシャンとはそんなに離れていないですし、次は逆転できますよ」と道悪に敗因を求めた。

この日の上位3頭が秋のパリロンシャン競馬場で再び相まみえれば―。日本馬の参戦も含め、10月6日が待ち遠しい。

6着に敗れたシュヴァルグランのO.マーフィー騎手も想定外の雨を恨んだ。勝負服は泥をかぶり、かなり汚れていた。
「ウェットな馬場が合いませんでした。ラスト600メートルくらいで手応えが怪しくなり、押っつけなければいけませんでしたが、一所懸命に走ってくれて感謝しています。24時間前（7月26日）だったらパーフェクトな馬場だったんですが…」
順調なら登録しているインターナショナルSへ。得意の叩き2走目、良馬場で改めて期待したい。

文：橋本　樹理

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  表彰式で喜びの表情を見せるエネイブル関係者

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  トロフィーに勝利の口づけ

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  日本から遠征したシュヴァルグランは6着

6着 シュヴァルグラン 友道 康夫 調教師のコメント
「昨夜からの雨で馬場が渋って、本当はもう少し良い馬場状態でやりたかったので、それだけが心残りです。馬の状態は、昨日までのニューマーケットでの調整がすごく良くて、順調に仕上がって申し分なかったです。レース後の息の入りも良かったし、ダメージはそれほどないと思います。次走のインターナショナルSを目指してまた頑張ります。日本は深夜の時間帯でしたが、夜遅くまで応援して頂いてありがとうございました。」

6着 シュヴァルグラン O. マーフィー 騎手のコメント
「スタート後しばらくはいい感じに進みましたが、向正面でのめったりするなど、残念ながら昨夜の雨のせいで、馬場が合わなかったです。馬のコンディションはとても良く、チームがしっかり仕上げてくれていました。ただ今回は（天気が）アンラッキーでした。」

	2019年7月27日（土） アスコット競馬場（イギリス）

4R	第69回 キングジョージ６世＆クイーンエリザベスステークス（G1）

３歳以上，定量			2390m　芝・右
賞金総額	：	1,250,000ポンド	発走　 15:40 （現地時間）
１着賞金	：	708,875ポンド	芝：稍重

着順	馬番 (ゲート)	馬 名　（生産国）	性 齢	負 担 重 量	騎手	タイム ・ 着差	馬 体 重 (kg)	調教師　（調教国）	単 勝 人 気
1	8　(11)	エネイブル(GB)	牝5	59.0	Ｌ．デットーリ	2:32.42		Ｊ．ゴスデン(GB)	1
2	2　(09)	クリスタルオーシャン(GB)	牡5	60.0	Ｊ．ドイル	クビ		Ｍ．スタウト(GB)	2
3	7　(04)	ヴァルトガイスト(GB)	牡5	60.0	Ｐ．ブドー	1 3/4		Ａ．ファーブル(FR)	6
4	6　(05)	サルウィン(IRE)	牡5	60.0	Ｊ．クローリー	7		Ｓ．カーク(GB)	11
5	4　(10)	ハンティングホーン(IRE)	牡4	60.0	Ｓ．ヘファナン	クビ		Ａ．オブライエン(IRE)	9
6	1　(06)	シュヴァルグラン(JPN)	牡7	60.0	Ｏ．マーフィー	3 1/2		友道　康夫(JPN)	4
7	11　(08)	ノルウェー(IRE)	牡3	55.5	Ｗ．ローダン	7		Ａ．オブライエン(IRE)	8
8	5　(02)	モランド(FR)	せん6	60.0	Ｐ　Ｊ．マクドナルド	14		Ａ．ボールディング(GB)	10
9	3　(03)	デフォー(IRE)	せん5	60.0	Ａ．アッゼニ	クビ		Ｒ．ヴェリアン(GB)	5
10	10　(07)	アンソニーヴァンダイク(IRE)	牡3	55.5	Ｒ．ムーア	5		Ａ．オブライエン(IRE)	3
11	9　(01)	マジックワンド(IRE)	牝4	59.0	Ｄ．オブライエン	11		Ａ．オブライエン(IRE)	7

単勝	8	120円	1番人気	馬連	2-8	230円	1番人気	馬単	8-2	280円	1番人気
複勝	8 2 7	110円 120円 240円	1番人気 2番人気 6番人気	ワイド	2-8 7-8 2-7	140円 360円 600円	1番人気 5番人気 8番人気	３連複	2-7-8	820円	3番人気
								３連単	8-2-7	1,710円	4番人気

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