2015年の菊花賞制覇以降、一貫して中長距離路線を牽引してきたキタサンブラックがラストランを迎える有馬記念（GⅠ）。「どうしても勝ちたい」。強い使命感とともに武豊騎手は、自ら引き当てた絶好枠（＝2番ゲート）へと愛馬を導く。

そしてレースは、スタートからゴールまでキタサンブラックの独り舞台となる。

抜群の飛び出しを見せたキタサンブラックに、武騎手もすぐさま「迷いなく先手を取りに行った」と呼応、手綱を推すようにしてハナを切る。「悔いの残らないよう、キタサンブラックの走りをさせることだけを考えていた」という決意の表れだ。

そのままキタサンブラックは、1周目のゴール前、1コーナーから2コーナー、向正面と、淡々とピッチを刻んでいく。3コーナーからはややペースを上げて並びかけてくることを許さず、直線入口で一気にスパート。食らいついてきたシャケトラを振り切って独走劇へと持ち込む。

「頑張ってくれ」

懸命にムチを振るう武騎手に、こんどはキタサンブラックが応えてのラストスパートだ。内ラチ沿いに最後まで脚を緩めることなく駆け続けるキタサンブラックに、外からシュヴァルグランとスワーヴリチャード、馬群の中からクイーンズリングが迫る。が、この激しい2着争いを1馬身半後方に見て、キタサンブラックは堂々の先頭ゴールを果たしたのである。

これでJRA・GⅠは史上最多タイとなる7勝目。獲得賞金はテイエムオペラオーを上回って歴代単独1位となった。大記録の達成とともに有終の美を飾ったキタサンブラックに、武騎手は「ありがとう。ご苦労様」と声をかける。

それは、この馬の走りを見守り続けたファンも共通して抱く想いだろう。感謝、そしてねぎらいの拍手に送られて、キタサンブラックはターフを去るのだった。

谷川善久