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PROFILE

石川 裕紀人(いしかわ・ゆきと)

1995年9月22日生まれ、東京都出身。美浦・相沢郁厩舎所属。2014年にデビューし、12勝で木幡初也騎手とともに民放競馬記者クラブ賞を受賞。翌年は40勝を挙げ、中央競馬騎手年間ホープ賞を受賞した。4年目の2017年にラジオNIKKEI賞のセダブリランテスで重賞初制覇を果たすも、その2週後に落馬して骨折。2018年4月に復帰し、2019年スプリングステークスのエメラルファイトで重賞2勝目を挙げた。

■デビュー以来、初めて北海道に滞在して騎乗する夏

――デビュー6年目を迎えた今年の夏は、函館、札幌と北海道で続けて騎乗していますね。

石川はい。これまで函館も札幌も1日ずつ乗ったことがあるだけでしたが、今年は滞在して騎乗しています。ずっと夏は福島と新潟が中心だったので、夏といえば暑い中での競馬しか知らなかったんですが、北海道は涼しいですね。というか朝晩は寒いくらいで、風邪をひかないように気をつけています(笑)。

――暑いのと寒いのは、どちらが好きですか?

石川寒がりなので、じつは暑い方が好きです。

――滞在だと、いつもは美浦で行う毎朝の調教を、競馬場で行うことになります。何か違いは感じますか?

石川美浦では自厩舎の馬が中心ですが、ここではいろいろな厩舎の馬の調教をつけることになりますし、1日の頭数も多くなります。1頭あたりの時間は短く、忙しくもなりますが、自分で調教時間のスケジュールを組み立てられるのはいい面でもあります。それに、関西の騎手や厩舎関係者と交流する機会が増えるのは新鮮で楽しいです。

■エメラルファイトに騎乗したスプリングステークスで久々の重賞制覇

――この春はエメラルファイトのスプリングステークスで久々の重賞制覇(通算2勝目)。検量室前に戻ってきたときに雄叫びを上げていたのが印象的でした。

石川無意識に出ましたね。そのくらい嬉しかったんです。自厩舎の馬で、ずっと調教をつけてきて、あの馬にかける思いはすごくあったので。

【スプリングS エメラルファイトで重賞2勝目を挙げる】

――昨年6月に新馬戦を勝ったときにも騎乗していましたね。

石川当時から走る馬だと感じていました。2戦目の札幌2歳ステークスも人気はなかった(8番人気)ですが、やれる手応えはあって。レースでは出遅れて、仕掛けでも遅れたところがあって悔いが残りましたが、それでも4着に頑張ってくれました。

――スプリングステークスの後、エメラルファイトは軽い捻挫で皐月賞を回避。その後、日本ダービーに出走しました。

石川それまで脚元の不安はない馬だったので残念でしたが、スプリングステークスは目一杯の仕上げでしたし、それだけ頑張って走ったということだと思います。距離などを考えれば皐月賞の方がチャンスは大きかったとは思いますが、馬は生き物ですし、そこが競走生活の終わりではないですからね。結果的に無理をしなくてよかったと思います。

――ダービーは通算2度目の騎乗でした。自厩舎の馬で出られるのは、やはり感慨深かったですか?

石川もちろんです。レースも負けはしました(12着)が、内枠から良いスタートを切って先行するという、やりたい競馬ができました。悔いは残っていません。

【エメラルファイトとダービーに臨む石川騎手】

■転機となった4年目の大怪我

――デビュー年は12勝、そこから40勝、43勝と成績を伸ばしましたが、4年目の2017年夏に落馬で大怪我をしましたね。

石川足を骨折したんですが、自分の足がポッキリと折れ曲がっているのを見て衝撃を受けました。それ以外にも僕は怪我が多いんですが、怪我は良くないとつくづく思います。何しろ馬に乗れなくなってしまうわけですから。

――リハビリを経て復帰するまでに結局9ヵ月かかりました。

石川復帰が遅れたのは途中で焦ってしまったからなんです。ある程度、動けるようになってからは可能なトレーニングは全部していたんですが、負荷を調整できなくて。結果、治りが遅れてしまいました。周りからはずっと「焦るな」と言われていたのに、早く乗りたいという気持ちが強すぎたんです。甘さですね。

――復帰は2018年4月でした。大怪我を経て、何か自身に変化は?

石川馬の歩様などを、より気にするようになりました。僕の落馬はだいたい馬が故障したときなんです。馬は生き物で、体調などは日々違いますから。痛みの信号に気づいてあげたいと思うようになりましたし、実際に敏感になってきました。

――身体はもう怪我の前とは変わらず動けていますか?

石川もう怪我の前と変わりません。心肺機能を戻すために始めたランニングは、今では習慣になっています。走るのはもともと得意じゃないし、ぜんぜん好きじゃないんですが(笑)。でも体重を落とすのにもいいですし、総合的なトレーニングにもなります。走るのはいいですね。

■6年目を迎えて感じる自身の変化

――今年で6年目ですが、デビュー当時から比べてどんなところが変化しましたか?

石川騎乗フォームは変わりました。追い求める理想形も変わってきましたし、そこに近づけてきていると感じます。最初の頃は見た目を重視していたところがありましたが、今は形より、力のかけ方だったり、馬とのコンタクトの仕方だったり、中身を重視するようになってきました。

――以前よりライアン・ムーア騎手が目標だと仰っていましたが、そこは変わらないですか?

石川最近は海外から自分と同世代のジョッキーが来ていますよね。オイシン・マーフィー騎手は僕と同じ歳ですし、ダミアン・レーン騎手も1歳上です。彼らと乗っていると、ムーア騎手への憧れとはまた違う形で刺激を受けますし、意識します。

――マーフィー騎手やレーン騎手とは話はされるんですか?

石川通訳さんを介して話すことが多いですが、騎乗の話もしますし、他愛のない話もよくします。

――日本人騎手も、歳下の後輩が毎年、入ってきています。

石川後輩の活躍は刺激になります。仲の良い武藤雅騎手は先日、「ジョディー」でアメリカに行って騎乗(ベルモントオークス招待4着)しましたが、僕もどんどんそういう経験をしたいですね。

■この夏から秋にかけての目標と、期待している馬

――この夏から秋の目標を教えてください。

石川まずは北海道で1つでも多く勝つことです。北海道は東西のトップジョッキーが揃いますし、ここで勝つのは本当に大変です。あとは2歳馬で「これは」という馬に出会いたいですね。

――秋に向けて、具体的に期待している馬はいますか?

石川エメラルファイトは放牧中ですが、帰ってきて乗るのを楽しみにしています。あとはやはり自厩舎の馬で、レノーア(牝・3)はかなり期待している1頭です。400kgくらいの小柄な馬ですが、バランスが良くてすごく能力が高いです。6月に2勝クラスを勝ったばかりですが、まだ上を目指せますし、牝馬限定戦なら重賞でもやれると思います。

【由比ヶ浜特別で3勝目を挙げたレノーア】

――毎日、自分で調教に乗っている馬での活躍はやはり嬉しいですか?

石川もちろん嬉しいです。最近は乗り替わりが増えて、上のクラスに行っても同じ騎手が乗り続けるケースは減っていますよね。だからこそ、乗り続けてきた馬でレースに臨む際には、いかにその馬の持ち味を引き出した騎乗をするかをファンの皆さんにもぜひ見てほしいと思っています。気持ちの入り方もそうですが、その馬のことをよくわかっているんだな、と思ってもらえたら嬉しいですし、そういう騎乗をしていきたいですね。