キーこ。つこ。けた。「デビューしたはかりの頃は、四五0キロある。ってしまった。と、少年は思った。もんだよ」の不運な女を思わせた。な敗け方をした。で印刷されることはできるだろうな」あれから、三年。そのテンボイントが有馬記念に本命馬として出走している。その名は七倍の活字より大きく、ファンの目をひきっそこそこの小柄な馬だったのに、いまじゃ五00キロを越すこともある。退ましくなったと、印刷所の粒父さんは言う。「こんどこそは、トウショウボーイを敗かして、文字通りの日本一になってみせるだろうさ」少年は、じぶんのジャンバーの中に今もかくし持っている10ポイントの「馬」という活字のことを思い出す。あの頃は、「自分だけの馬のように思っていたテンボイントだったが、今じゃ日本一の人気馬になってしまった」。そのことは、誇らしいというよりはむしろ、少年にとってさびしいことだったので男は一生、ガラクタを引きずって歩く。そして、男の一生自体がガラクタであることを忘れようとするのである。という、サローヤンの詩の一節が少年の心をとらえる。それにしても、テンボイントは本当に日木一の実力馬になったのだろうか?一抹の不安がないわけではない。さわってみると、10ポイントの活字の鉛のひんやりとした感触が指を刺すようだ。少年は、有馬記念発馬五分前の満旦のスタンドの中で、白い息を吐きながら、なけなしのバイト料10万円で買ったテンボイントの単勝馬券をジャン。ハーだったのか、と噂されながら引退したワカクの中のもう一方の手でにぎりしめているのだテンポイントの母のワカクモは、ほつれ毛ホステスの万里子は、その出生の秘密の記事を読んだことがある。ワカクモの母のクモワカは、セフトと星若の子で、名牝の誉れが高かったが、伝貪を患って薬殺を命ぜられたちは、「殺した」という報告書を出して、実はひそかにかくまっておいた。(母が家来に命じてわが子を殺させようとし、家来がその子をかくまって育てたギリシャ悲劇の「オレステス」を思わせる話だが、実話なのだ)殺されたことになっていたクモワカは、奇跡的に全快して、カバーラッ。フニ世とのあいだに仔を産んだ。その仔が、ワカクモであっワカクモは母の血をひいたすばらしい索質の持主だったので、関係者はこれを何とかデビューさせたいと思った。だが、すでに死亡届の出ている馬の仔を登録させるわけはない。ワカクモは、幽霊の仔として認知されることができなかった。それから、裁判がありクモワカ生存説が新聞を賑わし、ようやく登録されたワカクモは桜花賞をあざやかに勝って舟の報復を果たしたが、オークスでは惨めやはり、幽霊の仔に大成をのぞむのは無理モの仔がテンポイントである。痩身で、伏目がちの少年を思わせるテンボイントは、どこかひ弱さの感じられる馬で、クラシックを目ざして東上した皐月賞で、トウショウボーイにあっさりと一敗して地にまみれてしまっ「テンポイントを見てると、あたしは博ちゃんのことを思い出すのよ」と、万里子さんは言った。ゆきずりの客とのあいだにできた子が、父の認知を得られぬまま成長し、母の万里子さんを恨みながら家出していったのは四年前のクリスマスの夜だった。それ以来、万里子さんは酒びたりで、下手な賭博にまで手を出して借金だらけになり、テンボイントとワカクモの母子のドラマを勝手にわが身にひきつけて買いつづけてきたのであった。「何が何でも、テンボイントに勝たせたいに賭けるといったものではなかった。「あたしは、あたし自身を買うんだわ」そう呟きながら鞘員のスタンドで息をつめて見守る万里子さんのうしろ姿は、こころなしかめっきりやつれたように見えた。トウショウボーイが天皇賞で惨敗したのは―つの謎だった。それまで三着以下が一度もなかった馬が、直線でバッタリと走らなくな十三戦して十勝し、二着が二回、三着が一回。史上最強とまで言われたこの馬が、坂のあたりでずるずる後退するのを見たとき、フわ」と言う万里子さんの心情は、もはやレースた。だが、愛馬を殺すにしのびなかった関係者こ。3ナ2ナ 11111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111 lllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllllJIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII 17
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