HTML5 Webook
29/51

る:·…゜はなかった。いったのだ。のだった。の位置を。フレストウコウがキー。フした。少なテンポイントの方であった。ぶやきつづけているのである。トは共倒れになってしまうだろう。そう思った矢先、テンボイントがずるずるっと下りはじめた。一瞬、トウショウボーイは単騎先頭に立った。トウショウボーイに一息入った。だが、テンボイントは力尽きたのではなかった。内から抜け出すのをあきらめ、一旦さげて外からの追い込み策をとったのだ。トウショウボーイが単騎で喝采に迎えられて四コーナーをまがろうとするとき、その外側からテンポイントが並びかけていった。一瞬の出来事だった。テンポイントが来ると、トウショウボーイはこれを離して再び先頭を奪った。だが、こんどはテンボイントにコースの不利二頭並んだまま直線に入ると、テンボイントがぐんぐん抜け出したのだ。トウショウボーイは、これを必死で迎え撃つかたちになった。武邦彦のムチがとんだ。だが、テンポイントの脚色の力が目立った。トウショウボーイに、昨年このレースでレコードを出したほどの冴えがないのか、それともテンポイントの報復の怨念の力がそれにまさったのか。怒涛のようなスタンドの歓声の中をテンポイントが一頭であざやかにゴール板前を通過して軽い目まいの中で、サローヤンの詩「ロック・ワグラム」の中の一節を思いうかべ、じぶんの体が急に軽くなってゆくように感じる負けることを知るのは、男のやさしさである。だが、それを受け入れたときから男はもう同じ場所には、いられなくなる。戸をあけて出てゆくはかはなくなる。そして、外は今日もつめたい風が吹いているのであだった。美保さんは、まだ売れないレコード歌手である。まだ完れない、といってももう三十七歳。苦節ー年はとっくに通りこして、いまも場末のキャバレーで他人の特唄ばかり唄っているのである。得惹の唄は小林旭の「昔の名前で出ています」地方ぃ洛ちした中央の重賞勝ち馬が、名前も替えずに金沢や水沢で走っているのをみるような、わびしい感じが、彼女の声には似合うのだ。いままで、テンポイントが一番人気になったことは十二回。(これはテンポイントの勝数よりも二つも多い)、一方のトウショウボーイも十二回。(これもトウショウボーイの勝数よりも二つ多い)。勿論、今日の人氣のことを考えれば、美保さんの買うべき馬は、だが、私はトウショウボーイに賭けていた。私には「落ち目」愛好癖というのがあって、なぜか下り坂のものへの心の傾きをおさえることができないのだ。師走の空っ風の中で、私はオーバーの襟を立ててスタンドの中にいた。そのポケットにはトウショウボーイの単勝が十万円。泣きたくなるような思いで「テンポイントだけには負けるなよ」と、つゲートがあくと、まずとび出したのは、スビリットスワプスではなく、トウショウボーイとテンポイントの二頭だった。スタンド前では、このレースが両馬の一騎打ちになるということが、誰の目にもあきらかになっ。t そのため内ラチとトウショウボーイに前をた。馬場が重かったので、どの馬も馬場の中央を通り、内側が大きくあいた。天皇賞でトウショウボーイを深追いしすぎて、共倒れになったグリーングラスは、そのトウショウボーイを射程距離に入れて走り、そのすぐあとくとも最初のニハロン位は先頭に立つと思われていたスピリットスワプスは、出番を失った脇役のようにしか見えなかった。やがて大きくあいた内を衝いてテンボイントが少しずつあがってくると、武邦彦はそれを待っていたようにトウショウボーイを内に寄せはじめふさがれて、テンポイントは袋小路に入ってしまった。そのままテンポイントは、後方の馬に尻を突かれるようなかたちで内ラチびったりをトウショウボーイに引き摺られた。馬場の重い内びったりを、他馬のペースで走ることは、かなりのハンデになる。このまま四角までいったら、テンポイントはバテてしまうだろう。鹿戸明は思いきって、テンポイントをトウショウボーイより前に出すことを考えた。誰もが予想しなかった展開である。テンポイントが内を抜けてトウショウボーイより前に出ようとすると、それを待っていたようにトウショウボーイもビッチをあげた。スタンドが騒然となった。トウショウボーイは、テンボイントを内から出さないようにしているのだ。向う正面では競りあうかたちで両馬がデッドヒートを演じはじめたが、テンポイントはどうしてもトウショウボーイの前に出ることができない。「危険だな」と、私は思った。グリーングラスが、その両馬の競りあいに全くからんでいかないのだ。このままいったら、トウショウボーイとテンポイン7こ 111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111 11111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111 Ill 21

元のページ  ../index.html#29

このブックを見る