JRA Dressage Training
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089先すべきである。頭頸が上がれば背が緊張し、柔軟性を欠いて、後肢の馬体下への進出が難しくなる。『収縮⇔LDR』という関係を徹底して確立させながら、再び収縮を求めてパッサージュを実施すべきである。◆ケース2パッサージュのリズムが崩れるパッサージュのリズムを作るのは、騎手ではなく馬である。リズムが崩れやすくなる原因は、騎手が脚を1歩ずつに使うこと、コンタクトが不安定になること、馬自身が力むことなどが挙げられる。この場合の修正は、先ず収縮速歩自体のリズムから見直すべきである。パッサージュを長い距離続けるのではなく、リズムの整った収縮速歩から数歩パッサージュへ移行した後、再び収縮速歩へ戻り、リズムの整ったパッサージュへいつでも移行できるようにする。また、コンタクトが一定になっていない場合は、1歩ずつにコンタクトが変わるのではなく、一定のコンタクトを作り出すために、騎座を安定させることが第一である。騎座は、馬の背中にプレッシャーを与えるのではなく、馬の動きに柔軟に同調していることが重要である。馬と一定したコンタクトを保つことは、このパッサージュに限ったことではなく、全ての運動で必要である。パッサージュをしながらも、コンタクトを緩めれば頭頸を下方へ伸展できる関係も必要である。馬体全身に力が入ると、頭頸が上がって背に緊張が生まれ、リズムを崩してしまう原因になる。一定のリズムは、収縮度が高い運動においても、リラックスした体勢から生まれることを忘れてはならない。◆ケース3常歩や速歩からパッサージュへの移行がスムーズにいかないグランプリの経路には、常歩からパッサージュへの移行の運動が組み込まれている。よくあるミスとして、常歩からの移行時に馬が緊張し、パッサージュではなく駈歩のような動きになり、完全に速歩(パッサージュ)のリズムを失ってしまうことがある。私も何度か実際の競技会で経験済みだが、この状態に陥ると抜け出すことが困難になる。最悪の場合、パッサージュを取り戻すこと常歩から手綱を持って次の運動に移行する場合は、馬がパッサージュと予感して勝手に収縮を始めて、駈歩のような乱れた歩様になることがある。これを防ぐには、1、2歩速歩発進をしてからパッサージュに移行するとよい。常歩からいきなりパッサージュへの移行を実施し過ぎると馬は先読みし、緊張して背を強張らせ、リラックスから生まれる柔軟性に富んだパッサージュができなくなる。パッサージュは速歩が収縮した動きであるため、常歩からパッサージュの移行の間に速歩を2歩ほど挟むつもりで、移行への緊張を解くべきである。◆ケース4パッサージュ時に、後肢のリズムが左右異なるこの問題は、カバレロ号が肢の怪我で休養した後に発症した事例である。右後肢と左後肢の踏み込みに差が生じ、リズムも崩れてしまう。この原因として、後躯の踏ん張る力が元に戻る前に、無理な運動を強いたために起こってしまったと考えられる。また、このケースとは別に、先天的に後肢がイーブンでない場合もあるだろう。これらの場合の解決として、踏み込みが小さい方の肢の側に馬体を曲げて(「腰を内へ」など)、踏み込みが大きい方の肢を抑え、浅い踏み込みの肢の踏み込みを促す方策もあるが、本質的な解決は、全力で前進して浅い踏み込みを深くして均等にすることである。アンイーブンになるのがパッサージュの時だけで、通常の速歩では見られない場合は、中間速歩からワーキングパッサージュへの移行を繰り返し、絶えず踏み込みを最大限に促すことが根本的な解決に向かうと考えられる。これらの運動は、馬体が真直性と透過性を持ち、頭頸の位置がアップヒルのポジッションで安定し、コンタクトが一定であることが前提である。運動の応用ができないまま、次の運動へ移ることになる。このケースのリカバーを考えることも大事だが、このような事態に陥らないように初めから準備しておかなければならない。最も大切なのは、パッサージュへの入りの移行である。馬がホットになり過ぎる場合は、パッサージュではなく、何度も速歩の移行を繰り返し、緊張を解かなければならない。

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