JRA Dressage Training
74/116

私は、このままでは何年経っても自分にはできないかもしれないと悩み、シュミット氏に相談した。彼は、確かに習得するのに時間が掛かっているが、いつか必ずできるようになるとだけ私に伝えた。その数ヶ月後に、シュミット氏の言葉通り、自分の扶助が安定して来ているという手応えを感じていた。踏歩変換の1歩ずつに、騎座の前出と脚の入れ換えが安定してきた。それに比例するように、歩毎踏歩変換がスムーズに継続できるようになってきた。譬え失敗しても、要件の何が足りなかったのかが分るようになったため、次の修正に役立てることができるようになった。ドイツ研修の最後には、ウサギヨウジンボウ号で輪乗りでの歩毎踏歩変換もできるようになっていた。究極の踏歩変換は、歩毎の踏歩変換である。この運動は、左右への踏歩変換が単発でできればほとんどの馬ができると考えられている。馬によって馬体の歪みや、変換時の癖などによって困難な場合もあるが、真直性があってスムーズな変換ができれば、あとは騎手の扶助次第で歩毎踏歩変換を調教することができると言われている。とはいうものの、私の個人的な経験では、とても困難を極めたという記憶しかない。歩毎踏歩変換を習得するのに、1999年から2001年に掛けてのドイツ研修2年間の内1年半を費やした。当時訓練で使用していた3頭のうちウサギヨウジンボウ号とヒポス号の2頭は歩毎踏歩変換の調教がなされていた。ヒポス号は歩毎踏歩変換の扶助を与え始めると、その後は扶助が止むまで自動的に正確に続けられた。しかし、ウサギヨウジンボウ号は、歩毎踏歩変換の全ての要件が満たされていないと、全く歩毎踏歩変換をしようとしなかったり、途中で変換しなくなったりした。今思い出しても大変な苦労であったが、簡単に歩毎踏歩変換をさせてくれなかったウサギヨウジンボウ号には感謝している。もし、ヒポス号のようにオートマチックに継続するタイプの馬だけに乗っていたら、本質的なメカニズムを理解することも、繊細な感覚を持つこともできなかったと思う。ウサギヨウジンボウ号で失敗し、ヒポス号で感覚を確認する、その繰り返しがあったからこそ、何も調教されていないホワイミー号に教えることができたのだと思っている。◦調教日誌◦この馬は後躯に内国産馬とは思えないほどの力強さがあったため、左右の違いは多少あったものの、踏歩変換の調教はさほど難しくはなかった。踏歩変換はやはり駈歩での跳躍力が大いに関係していて、トレーニングを積むにつれ、踏歩変換のクオリティに磨きが掛かっていった。歩毎踏歩変換への調教もスムーズに移行でき、習得にもさほど時間が掛からず、7歳時には15歩以上継続することができていた。◦調教日誌◦踏歩変換は、馬の能力によっては初めて実施してもすぐにできる馬もいれば、騎手が忍耐強く何度も繰り返していく中でようやく理解を示す馬もいる。私が騎乗した馬の中にも、半年ほど掛かってようやく理解してくれた馬が数頭いる。ヴォルティガー号もそのうちの1頭で、要求されていることを理解し、単発の踏歩変換が左右正確にできるようになるまで時間が掛かった。しかし、踏歩変換が安定してできるようになると、4歩毎から2歩毎までは1週間ほどで完全にできるようになった。現在では、連続踏歩変換を失敗することはほとんどない。072JRA Dressage Training歩毎踏歩変換成功への道トレジャーハント号ヴォルティガー号

元のページ  ../index.html#74

このブックを見る