JRA Dressage Training
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004JRA Dressage Training日本の馬場馬術は、東京五輪以来44年ぶりに2008年北京五輪団体出場を果たし、世間の注目を浴びることになった。日本では乗馬・馬術はマイナースポーツではあるものの、経済成長とともに乗馬・馬術を楽しむ人々の数は増加し、バブル崩壊後もその勢いは衰えていない。しかし、馬術の中でも馬場馬術は専門的なことや感覚的と言われることもあり、乗馬・馬術経験者でさえも分かりにくいもの、難しいものと捉えていることが多い。ましてや、乗馬・馬術をあまり知らない方たちには全くと言っていいほど浸透していないのが現状である。このように、馬場馬術について理解することはなかなか難しいものの、乗馬・馬術全体に対しては世間の注目が集まりつつある。そのため、馬と縁がない方たちでも馬についての知識を学び、競技会の観戦の経験を積むことができれば、馬はどのように動くことができるのか、どのような演技に難度があるのかなど、馬場馬術で展開される馬の優雅な動きを楽しむことができるようになるだろう。そのために、何らかの方策を持って馬場馬術の普及に努め、この素晴らしいスポーツが日本に広まるようにしていかなければならない。その一助になればとの思いがあり、自ら馬場馬術の調教を志そうとしている方たちに向けて、私の経験に基づいた調教法をここにまとめて記した。難しい馬術用語はできるだけ使用せず、高度な馬場馬術の調教もシンプルに表現し、調教の段階を追って分かりやすく説明するように心掛けた。これらの方法は、私が多くの馬や指導者から学んだもので、実際に経験して正しいと感じたことばかりである。しかし、それらは決して簡単に達成できることではなく、毎日の地道なトレーニングによってしか結実できないものばかりである。馬場馬術の基本的な技術は、古典馬術から受け継がれ、継承されてきているものがほとんどであると思われる。古い馬術書を読んでも、未だに新しい発見があるのはそのためなのかもしれない。一方、我々が馬から受ける感覚は無数にあるのではないだろうか。私は、その馬術感覚をできるだけ多く身に付け、馬から発信されるサインを見逃さないライダーになりたいと常に考えている。そのためには、騎手は正しい姿勢を保ち、正しい扶助を馬に指示できることが必要である。馬を調教するには、騎手は馬以上に努力して調教技術を身に付けていなければならない。正しい技術を持った騎手が多くなれば、無理のない体勢で最小限の扶助によって動くことができる馬が増えることになる。本書の記述は、具体的で強い語調で書かれていることが多い。今までの馬術書には書かれていないことも多くあり、一見すると誤解を招くこともあるかもしれない。しかし、私は敢えて、簡単に箇条書きしたものを羅列するだけの構成は避け、文章にして表現してみることにした。馬を調教するということは、決して生易しいことではないし、騎手は強い信念を持って馬と対峙しなければならない場面が多々あるであろう。言葉の通じない馬を納得させるために、感情を抑えて耐えなければならないこともあるだろうし、努力と結果が比例しないことはよくあることである。しかし、それらは全て人と馬が完全に調和し、旺盛な前進意欲のある美しい人馬一体の演技によって、人々を魅了する日のためにあると考えている。JRA馬事公苑 普及課 北原広之まえがき

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