039ていく。◆ケース7ハミに過剰に反応して、少しのコンタクトで巻き込んでしまうこの問題は、馬が騎手の強い拳から逃れるために生じる。初期の調教の過程で、騎手が拳を多用し、ハミ受けの外形だけを形作ろうとした場合に生じる問題である。また、騎手の拳に限らず、折り返し手綱の間違った使用や強く作用する調教補助具を調馬索で行い続けた結果に生じることも考えられる。この問題は、馬の口に抵抗がないので乗りやすいように感じるが、馬のバランスまでも前のめりになる可能性があり、危険である。私が採る方法は、先ず後躯からの推進が透過していることを確認するために、頭頸を前下方に伸ばしてハミへ出て行くようにすることである。この際もハミに対してビハインドザビット(巻き込んだ状態 韁きょうご後)にならないように、鼻先を前に出しながら頭頸を伸ばすようにする。そのためには、コンタクトを緩めて後躯からの推進力がハミを押し出すまで下顎を窮屈にせずに解放する。前下方へ伸展しても巻き込んだままのときは、前下方にこだわらず、コンタクトを持たずに下顎の譲りを求めないようにする。次の段階として、頭頸を上げてバランスを起こすようにするが、鼻先が必ず前へ出ていなければならない。どのようにしてその体勢にするかというと、騎手にできることはただ一つ、拳を使わないことである。拳を使うことは容易にできても、拳を使わないことは簡単なことではない。騎手の姿勢とバランスは完全に騎手自身で維持し、拳はほんの僅かなコンタクトのみにする必要がある。場合によっては、脚と騎座から圧し出した後躯からの推進がハミを押し出すようにするため、コンタクトをゼロにする状況も考えられる。騎手が無意識に拳を使用していることが原因である場合は、コンタクトを思い切って解放することによって、この問題が解決することが多い。この問題の矯正中は、頭頸の位置はやや高く保ち、バランスを馬自身に維持させることを忘れてはならない。(「バランスを起こす方法と騎手の感覚」参照30ページ)馬とのコンタクトのとり方には様々な方法がある。私は、基本的な方法として内方姿勢を要求し、更にサイドへの屈曲を強めてコンタクトをとる方法を採っている。具体的には、拳を握ってややハミにプレッシャーが掛かるようにする。この時、馬が下顎を譲ってハミを受け入れれば、騎手のハミへのプレッシャーもなくし、軽いコンタクトの関係が確立する。しかし、もし騎手がハミにプレッシャーを掛けても、馬が下顎を譲らずに騎手の拳に抵抗を続けた場合はどうであろう。最悪のケースは、馬から譲らなければこちらも絶対に譲らないとばかりに、ますますプレッシャーを強めて力で抑え込もうとすることである。気性の強い馬はこのプレッシャーから逃れるために、更に強く押し返そうとするか、苦しさのあまり立ち上がったり、はたまた騎手を乗せたままひっくり返ることすらあるだろう。私は、騎手のハミへのプレッシャーに対し、絶対に馬がすぐに譲らなければならないという考えを持たない。ハミへプレッシャーを掛けても、馬がそれを受け入れない場合、プレッシャーを掛けることを一旦止める。プレッシャーがなくなると馬は楽に感じ、抵抗していた馬もハミを押し返すことを止めて譲る仕草をすることがある。その後、すぐに先ほどと同様にプレッシャーを掛け直し、馬が苦しくなる前にまた止めて、こちらから譲る。馬は、緩急が付いたハミ受けへのプレッシャーを感じ、騎手に譲られた瞬間に楽になることを感じる。1回のハミへのプレッシャーの時間を例えば5秒ほどにし、次に拳を楽にした時間を5秒ほど作る。これを何度も繰り返す。このことを、内方姿勢をとりながら行うと、効果は更に大きくなる。これは、拳を左右に小刻みに動かす癖があるライダーの修正にも役立つ。拳を左右に動かすことは、馬の意思を全く無視した行為である。その動きに従う馬もいるであろうが、それはハミを正しく受けた状態とは言えない。馬の反応を感じながら緩急を付けるコンタクトのとり方を実施することにより、拳を左右に小刻みに動かす使い方の修正と、馬と喧嘩することを極力避けて運動することができるようになる。※この緩急を付けたコンタクトの取り方には一般的な名称はないが、私は個人的に「ハミへの逆譲り」と呼んでいる。運動の基本コンタクトのとり方
元のページ ../index.html#41