JRA Dressage Training
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037正できない場合は、「力」の中で強弱を付けてコンタクトを弱めた際に、それに釣られるようにハミを譲る「ハミへの逆譲り」を利用する。(コラム「コンタクトのとり方」参照39ページ)◆ケース3左右どちらかの口が硬く、内方姿勢をとりづらい馬の口の柔軟性が最初から左右均等であることは稀である。どちらか片方の手前の姿勢がとりづらかったり、駈歩の動きが違ったりすることがある。左右どちらかのみ内方への屈曲が困難なケースも多くある。このような馬への対処法として騎手が考えるべきことは、例えば右への屈曲を馬が拒んでいても、可能な限り左右均等の屈曲を馬に求めることである。私は運動中常に内方への屈曲を意識しており、左右どちらが硬いということを考慮しながらも、左右均等に屈曲できるようになることを要求するようにしている。結果的に硬い側が浅い姿勢になることがあっても、硬い側の内方姿勢は力を大いに使ってでも向けるべきであると思っている。なぜなら、不得意の手前を仕方ないと見過ごしてしまえば、馬への要求はなくなり、一生内方への屈曲を得られることはない。騎手は、不得意な手前と認識し、得意な手前以上に要求度を高めて、最終的には左右が均等に近づくように屈曲を求めるべきである。それによって、馬体の歪みの矯正や真直性が得られるようになり、馬の弱点をカバーしてアスリートとしてトレーニングできることになる。ここで注意したいことは、その馬が苦手とする内方への屈曲を求める際、内方手綱のみを使用していると、頭を捻るようになる可能性があることである。騎手は、馬を頸の付け根(き甲)から屈曲させるべきで、項、頸、背、腰がベンディングラインを描くイメージを持ち、最終的に内方姿勢の体勢を馬自身がキープするようにする。馬とのコンタクトはあくまで軽いものであって、騎手が手綱を引っ張ることによって馬の体勢を維持すべきではない。◆ケース4馬がハミにもたれる。馬の口が硬くて操作が困難この場合の原因として考えられることは、馬のバランスが前へ崩れていることである。運動の基本だろうか。この体勢によって、騎手の拳が馬に強く下方へ引っ張られるために、騎手は拳を強く引き返し、馬は更に強く下方へ引っ張るという悪循環に陥っている状態である。馬の口が硬くて操作が困難な場合の原因も、このような崩れたバランスで馬が動いていることが考えられる。これらの解決方法を簡潔に述べれば、馬のバランスを起こすことである。バランスが起きれば、ハミにもたれていた重さは馬自身が支えていることになり、騎手がそれまで感じていた拳への重さばかりでなく、左右の硬さまでもが和らぐことがある。では、どうすれば馬のバランスを起こすことができるの馬のバランスを起こすには、透過性と収縮とが結びつく必要がある。先ず騎手がイメージしなければならない馬の体勢は、馬の頭と頸が肩の上に乗っている状態である。この体勢にするには、馬自身が頭頸の重さを支えていなくてはならないことを念頭に置きながら、バランスを起こしていく作業をすべきである。多くのライダーは、頭頸の伸展(緊張の緩和)の後、次の段階である頭頸が起きた体勢へ移行せず、バランスが前方に崩れたままの体勢がいいと思い込んでしまうことがある(写真①)。バランスが起きていないために後肢も踏み込めず、馬の頭頸の重さが騎手の拳に寄り掛かるように重たくなる。騎手はそれを常に拳で支えるように持ってしまうため、馬は更に自分でバランスを起こそうとしなくなる。これらを改善するには、半減却を使いながら移行を繰り返し、段階的にバランスを起こしていくことが効果的である。例えば、速歩から常歩へ移行する際、半減却を使いながら収縮を求めてバランスを起こし、常歩へ移行する。その際、馬がハミに強く出て来るのであれば、拳と連結した強い騎座で馬の口に対抗し、前にバランスを崩してはならないことを教える必要がある。これらは、馬の状態や性格によって扶助の強さを騎手が考慮して実施しなければならない。馬のバランスを起こすということは、馬が頭頸を上げることができるような環境を作ることでもある。経験のある騎手は、馬の頭頸が丸くなっていることによって安心してしまい、バランスが前のめりになっていることを見過ご

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