JRA Dressage Training
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問題解決のパターン035運動中、舌を出す馬がいる。その出し方も様々だ。右や左に出す馬、どちらか決まった側に出す馬、ハミを越さないでハミの下から出す馬など色々だ。それらの主たる原因は、騎手の強い拳の操作によってハミが舌を圧迫して痛みを引き起こし、その痛みから逃れるためだ。以前は舌など出したことがなかった馬が、ある日突然に舌出しを覚え、その日からことあるごとに舌を出してしまうことがある。このように、「ハミから逃れるために舌を出す」という回路が一旦でき上がってしまうと、舌を元の正しい位置に留めておくことは容易ではない。そのような馬は、ほんの少しコンタクトを持っただけで舌を出してしまうことも起こり得る。これを解決するためには、馬に「ハミは痛くない」という回路を呼び戻すほかに、根本的な解決策はない。私は、舌を出す馬を修正するとき、どの場面であれば舌を出さないか、どうすれば舌を出すのかを見極めるようにしている。多くの場合、ハミで舌を圧迫しなければ舌を出さない。そこを起点としてコンタクトを持ったり、馬が舌に痛みを感じて嫌になる前に解放したりを繰り返し、少しずつ馬を丸めるようにする。そのためには、騎手の拳は極めて繊細でなければならない。時には、コンタクトをゼロにしたり、ほんの僅かにコンタクトをとったり、またそれらの馬の反応を感じ、それに応じたコンタクトをとることによって、その馬が感じる「快適な環境」を提供することが騎手に求められる。それらの積み重ねによって、馬の捻じれた心を解きほぐしてやる以外に、ハミへの不信感を払拭することはできない。◆ケース1頭を上げてハミに抵抗を示す運動の基本がある状態でなければならない。そこで、前述した「ショルダーフォア」の体勢を直線上の蹄跡でもとることによって、馬体の歪みを取り除くことができる。私は、「ショルダーフォア」だけでなく、4肢を真直ぐ進ませながら、馬の頭頸だけを内方へ屈曲させる「頭頸のみ内へ」の段階も作っている。これも、「広義の内方姿勢」である。馬体の角度の深さから「肩を内へ」、「ショルダーフォア」、「頭頸のみ内へ」の3つを、状況に応じて使い分けるようにしている。ち、それを馬に伝えなければならない。頭頸を伸展させるための扶助操作①・外方手綱を支点としてコンタクトを保ち、内方手綱を開いて頭頸を内側に向けると同時に、内方脚を外方に向かって使い、内方へ屈曲を求める②・馬が素直に屈曲に従えば、拳の圧力を弱めて馬の反③馬が譲るサインを示したら、コンタクトを緩める馬がこのような体勢でいると、背を反らして後肢の馬体下への進出が難しくなり、何の運動もできない状態に陥ってしまうだけでなく、馬の背中を痛めてしまう可能性がある。では、どのように対処して解決すべきか?先ず、なぜこのように抵抗を示すのか、馬の立場に立って考えることが必要である。これは、騎手の責任であることがほとんどである。騎手が透過性を保つための扶助を正しく使っていないため、透過性を欠いたまま運動を続けることによって、馬は背や腰などを痛めながら運動するという悪循環に陥っていることが多い。騎手は曖昧な意思伝達ではなく、一貫した考えを持応を見る文字にすると非常にシンプルな扶助操作であるが、扶助を使う加減は馬それぞれに対応して異なる。ある馬はコンタクトを強く保つことをきっかけとするだけで反応し、また、ある馬は手綱を開いても引いても反応がないということもある。騎手は、その馬に合った分だけの力を使わなければならず、反応が得られるまで扶助を強くしていく必要があるだろう。私は、上記の方法を常歩運動から行う。常歩で馬が頭頸を伸展して丸くなる準備ができた時点で、ゆっくりした速歩運動をするようにしている。確実に騎手の意思が通じる状態を作ることが、最優先であると思う。舌を出す馬

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