JRA Dressage Training
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030JRA Dressage Training思う。私はこれらの過程を大切にし、決して結果を急がず、馬の反応を感じ、手綱を通して対話しながら馬に納得してもらうように心掛けている。その馬の納得に至るまで、騎手は根気強く「拳⇔騎座⇔脚」の総合的な扶助を用いて、馬との調和を目指すべきである。「馬のバランスを起こす」という言葉をよく聞くが、私はそれを「馬が自分でバランスを保つ」という言い方に置き換えている。騎手は、馬が自分でバランスを保っている状態で騎乗することが必要であるが、実際には騎手が馬の背に乗ることによって、馬本来のバランスを崩すことが多い。正しいバランスとは、馬の重心の真上に騎手が乗っていること、言い換えると、騎手の重心の真下に馬の重心がある状態である。運動中に馬の重心が騎手の重心より前に移っている場合、すなわち頭頸が前のめりになっていると騎手は乗りにくく感じる。それは、馬がバランスを前へ崩して、馬の頭と頸の重さを騎手が拳で支えて騎手の拳に重たくなるからである。バランスが起きるとは、馬の頭と頸を肩の上に乗せて馬自身が支えている状態のことで、騎手の拳は純粋にハミ受けのコンタクトだけで馬と繋がっている感覚になる。騎手は、馬のバランスを起こそうと手綱で引っ張り上げるのではなく、後肢の踏み込みを促して後躯を沈下させることで、前躯を起揚させなければならない。更に騎手は馬の頭の位置にも細心の注意を払わなければならない。たとえバランスが起きていたとしても、鼻梁が内に入って巻き込む体勢になっていれば、それは透過した体勢とは言えない。後躯から生まれた前進気勢はハミまで到達しておらず、「推進力がハミに出ている」状態ではないからである。ここで重要になるのは、馬の頭頸の位置をどこに置くかということである。騎手は常に理想の体勢のヴィジョンを頭の中に描いていなければならない。私は、最終的に項が一番上になるように意識している。騎手の視線から項革が見えなくなるということは、第二頸椎以降が頂点になっており、鼻梁ラインは地面に対して垂直より内側にある。項を頂点にし、コンタクトを一定に保つことが、バランスが起きた正しい姿勢ということになる。この頭頸の位置に安定させるためには、正しい騎手の馬術感覚と技術が必須になることは言うまでもない。頭頸が低く前のめりになっている馬のバランスを起こすためには、馬が自らバランスを起こすように仕向ける必要がある。頭頸が低いからといって、拳でハミを弾くように当てるのではなく、馬自身が頭と頸を起こすことが根本的な解決に繋がる。関係起揚の調教方法①脚を使用して後肢を踏み込ませる②・騎手は同調している騎座の動きを半分くらいに制限し、前進するパワーを馬体もしくは騎座に溜めるイメージを持つ③常歩の歩幅を詰めて収縮する④・頭頸が上がった体勢になることを妨げない拳で、「ハミ受け」よりも頭頸が上がることを優先する⑤・馬は、持っているパワーが前進するために使われなければパワーの行き場がなくなり、後肢を踏み込んで後躯を沈下させることに力を費やそうとする⑥・⑤の結果として、馬のバランスが起きて前躯が起揚する(関係起揚)これら一連の作業を常歩で行い、前躯が起揚する環境を作ることが重要である。ハミで馬の口を弾いて頭頸を起こそうとしても、その瞬間にしか効果はなく、根本的な解決にはならない。しかし、馬が自ら頭頸を起こそうとすれば、馬の方からアクションを起こしたことになり、それを騎手が尊重することによって、バランスが起きた体勢を馬が自分で維持しようとする。バランスが起きるとはどういうことかバランスを起こす方法と騎手の感覚

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