シュミット氏の指導法と調教スタイルドイツ研修レポート❽13私が初めて彼の指導を受けた1999年の時と、シュミット氏の指導スタイルは今も何も変わっていない。独特の高い声質から繰り広げられる言葉の数々は、全く妥協を許さない真の馬術を追求している。彼は常にその馬が持つ最大限の動きを要求し、それが達成されるために声を荒げることもある。例えば、7点に相当する動きができる馬が6点相当の動きしかしていなければ、すぐに7点もしくはそれ以上の動きを要求する。そこへ到達する方法は、誤魔化しやトリッキーさや小細工もない、正統でスタンダードなスタイルである。私は多くの選手やトレーナーの指導を目の当たりにしてきたが、彼ほど真面目で、情熱的な指導者はいない。そして、何より実際に乗っている姿が美しい。彼が馬上で感じている感覚と同じものを私に求めるため、日々自分を変えるための努力を怠るわけにはいかない。また、この厩舎ではもう一人Hubertus Hufendiek(フベァトゥス フウフェンディック)という有能な選手がいる。シュミット氏が厩舎を留守にするときは、たいていシュミット氏の代わりに彼が私の指導にあたってくれる。彼はまだ若いがニュージーランド馬場チームのナショナルコーチを務め、経験も豊富で高い技術を持っており、彼の指導を受けるために来厩するライダーも多い。彼の指導方法もシュミット氏と同様のスタンスを採っているが、到達点は同じでも時折シュミット氏とは違うアプローチを採ることがあり、私にとってはセカンドオピニオンをもらうよい機会になっている。私が指導を受ける際に心掛けていることは、第一に、馬と自分の関係を一番大切に保つということである。訓練中、指導者からの言葉で頭が一杯になり、馬から受けるフィーリングを見失っては、今ある問題にどう対処するかの判断が正しくできなくなる。こちらのライダーの訓練を見ていると、まるでトレーナーの話を聞いていないように見える。それは、自分が馬から受けるフィーリングに集中し、耳だけはトレーナーの指示に傾けているからだろう。日本でも最近は少なくなってきているかもしれないが、指導者の指示に対してライダーがその度に大声で返事をしたり、返事がなければ指導者が返事を求めたりする光景がある。それらは、指導者と騎手の関係が馬よりも強くなってしまっているからではないだろうか。また、指導者と騎手の立場は上下関係と考えるのではなく、その瞬間に感じている感覚はライダーにしかないため、指導者が思っている感覚と違えばその場で主張すべきであり、それを見過ごしてしまえば正しいアドバイスを受けることもできなくなるのではないだろうか。また、シュミット氏は馬を調教する際、矯正馬具(折り返し手綱・サイドレーン・バランシングレーン他)を一切使用しない。普通の水勒と大勒が中心となる。また、若馬や初期調教の段階を除いては、調馬索で調教することもしない。基本は馬の背に乗り、そこから受ける馬の反応と向き合うことによりリラックスを求め、その馬の持つ能力を発揮するようにしている。そのためには、技術を磨き、馬の出すサインを見過ごすことのないライダーにならなければならないことは言うまでもない。(2007年10月報告書より)102JRA Dressage Training
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