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今週末の中山、阪神競馬場のメインレースはともに牝馬重賞。東では2歳牝馬のフェアリーS、西では古馬牝馬による阪神牝馬Sが行われます。
叩き合いの迫力といった点ではなかなか牡馬にはかなわない牝馬ですが、直線で見せる切れ味勝負の見ごたえは、牡馬の叩き合いとはまた違った迫力があるもの。牝馬特有と言われる一瞬の差し脚が決まったときには爽快感が味わえるものですが、今週末の東西の牝馬重賞でも、そんな迫力ある切れ味勝負が楽しめればいいですね。
阪神メインの阪神牝馬Sは、昨年まで阪神牝馬特別の名称で施行されており、平成7年以前は2000メートルの距離で争われていた重賞でした。
今回の優勝馬物語の主役であるメモリージャスパーは平成6年の阪神牝馬特別優勝馬で、このレースで初めて重賞タイトルを獲得した馬。同期の牝馬にはヒシアマゾン、チョウカイキャロルなど、古馬になっても牡馬と重賞で互角の戦いを見せた実力馬がいるハイレベルな世代で、メモリージャスパーはこれらの強敵を相手にGI戦線で堅実な成績を残した実力馬でした。
ただ、堅実な反面、勝ちみにはかなり遅く、重賞ではあと一歩の詰めの甘さで関係者をやきもきさせた馬。先ほど、牝馬には一瞬の切れ味があると書きましたが、もちろん切れ味よりもしぶとさが武器の牝馬もいるわけで、メモリージャスパーは後者のタイプ。一線級のメンバー相手に上位争いをする力がありながら、ゴール前では切れる脚を持つ馬に交わされるパターンの目立つ馬でした。
メモリージャスパーの母は平成1年に輸入されたアメリカ産の仏GII優勝馬バラワキ(父ミスワキ)で、日本で初めての子供がイルドブルボンを父に持つメモリージャスパー。平成3年5月に北海道浦河町の谷川牧場で生まれたメモリージャスパーは、育成期間を終えると栗東の渡辺栄きゅう舎へ入きゅうし、3歳2月に中京競馬場でデビューしています。
初戦は余裕残しの仕上げで2着に終わったメモリージャスパーですが、折り返しの2戦目は先手を取ってアタマ差粘り込むしぶとい内容の逃げ切り勝ち。
「牝馬だけど、本当に勝負根性がいい馬」
と、馬体が合ってからの粘りを、手綱を取った角田晃一騎手はこう絶賛しています。
続く初芝の500万特別戦は8位入線12着降着という不本意な成績に終わったメモリージャスパーですが、
「芝はまったく心配なかったが、抜けるスペースがなくて脚を余してしまった」
と、レース後の角田騎手は力負けではなかったことを強調。この言葉を証明するように、メモリージャスパーは続く平場のダート戦で手堅く2勝目をあげると、果敢にオークストライアルのサンスポ賞4歳牝馬特別に出走。優勝したゴールデンジャックにはクビ差及ばなかったものの、初めての重賞挑戦で2着に好走し、芝でも高い能力を発揮できることをファンにアピールして見せました。
「直線の長い東京コースに距離延長、走ると思っていました。この結果はフロックじゃないですよ」
優勝は逃したものの、メモリージャスパーが芝でも高い能力を発揮できることを証明し、レース後に満足げな表情を見せた角田騎手。ただ、ファンはメモリージャスパーの素質をレース前から見抜いていたようで、オークストライアルでのメモリージャスパーの人気はノーザンプリンセスに次ぐ2番人気という高いものでした。
続く本番のオークスでも強敵相手にメモリージャスパーは健闘。角田騎手は決め手の甘さをカバーしようと4コーナー先頭の早目の競馬で押し切りを狙ったのですが、最後はチョウカイキャロル、ゴールデンジャック、アグネスパレードという決め手のある馬につかまり4着。ただ、勝ったチョウカイキャロルからは0秒2差の僅差なのですから、早目に動いた展開を考えれば褒められていい内容と言えるでしょう。重賞タイトルに手が届く力が十分にあることを、メモリージャスパーはこのオークスでファンに印象付けました。
夏を休養にあて、オークスから5ヵ月後のローズSから始動したメモリージャスパー。叩き良化型だけに休み明けは7着と動けなかったものの、続くエリザベス女王杯ではヒシアマゾンの4着とまずまずの走り。レースを2つ使ってグンと調子を上げ、3歳最終戦となる阪神牝馬特別を迎えました。
初めての古馬相手のレースとは言え、ヒシアマゾン、チョウカイキャロルといった同期の強豪がいないメンバー構成だけに、メモリージャスパーにとってはタイトル獲得のまたとないチャンス。ローズSでプラス26キロと成長分を加味してもやや太目だった馬体が絞れ、完調と言える状態に仕上がっていただけに、手綱を取る角田騎手にしてもここではなんとしても結果を出したいところでした。
幸い、レースはオグリローマンが先頭に立って緩みのない流れを作り、メモリージャスパーが最も苦手なスローペースの瞬発力比べにならない流れに。縦長の馬群の後方で末脚を温存したメモリージャスパーは、直線に入るとインを突いて末脚を全開し、先頭に立った1番人気のアグネスパレードを3/4馬身とらえて先頭ゴール。3歳最終戦にしてついに重賞初制覇を果たしたのでした。
「この馬では善戦しながら勝ち切れないレースが続いていたので、ずいぶんと悔しい思いをしました。やっといいところを見せられて、ほっとしています」
タイトル獲得の責任を果たし、レース後はこう言って笑顔を見せた角田騎手。オークス、ローズS、エリザベス女王杯と常に後塵を拝してきたアグネスパレードを破っての優勝だけに、関係者の喜びもひとしおだったことでしょう。
生産者である谷川牧場では後日、佐渡忠勝さんが、
「チョウカイキャロルもメモリージャスパーも生産だけでなく、うちで育成も行った馬。思い入れも格別なものがあります。牝馬の重賞勝ちは違った意味で嬉しいものです。牝馬は将来、牧場に戻ってくる可能性が高いですからね。長い目で楽しめます」
と、喜びの言葉を残しています。
「本当に強くなっていると思います。古馬になって牝馬がGIを勝つのは難しいことですが、密かに期待しているんですよ」
と、佐渡さんはメモリージャスパーの競走馬としての素質開花にも大きな期待をかけていたのですが、残念なことにメモリージャスパーは翌年4月、放牧先の鹿児島県の牧場で呼吸不全のため急死してしまいました。
悲願の重賞タイトル獲得を果たし、いよいよこれから本格化を迎えようとしていた時期。無事なら重賞での華々しい活躍が待っていたはずの馬だけに、なんとも惜しまれる突然の出来事でした。
※年齢は新表記、レース名は当時の表記。
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