企業情報日本中央競馬会創立65周年記念式典 理事長挨拶(骨子)

令和元年9月20日

今年も無事に創立記念の式典を迎えることができましたのも多くのお客様にお支えいただいたこと、そして諸先輩方、役職員、JRAグループ各社・各団体、さらにはサークル関係者等々多くの皆様に支えられてきた結果であります。改めて、深く感謝申し上げる次第です。

夏競馬が終わり、秋競馬が始まったばかりではありますが、これまでのところ、降雪により2月に東京競馬が中止となり、代替開催を行い、また、5月の東京開催では雹の影響で競走を中止するという前代未聞の出来事もありましたものの、予定した日程は順調に消化してきているところであります。夏季における猛暑や多くの台風の上陸等もあり、世界的に気候変動を感じざるを得ない事態が多く起こるようになってきました。
とりわけ夏季の猛暑に対しては、人馬の安心・安全の確保という観点からも各種対応が必要と認識しており、下見所・装鞍所等におけるミスト装置やシャワー・扇風機の設置、下見所周回時間の見直し等の熱中症対策を行ってきました。
競馬の開催は基本的に自然環境の下で行われるものであり、こうした環境変化への対応は、競馬の公正性・信頼性を担保する意味合いからも大きなテーマとして捉えなければならないことと認識しておりますし、その対応策を少しずつでも早く具現化する責任があるものと思っております。

また、こうした環境変化との関連で申し上げると防災対策にもより一層の注意を払う必要が増してきているものと捉えております。今年は、これまでに経験のない集中的な豪雨が多発しており、台風の上陸も例年に比べると増えているようです。
社会的にも公共交通機関にみられる「計画運休」のように、これまでの余り例を見なかった災害対応が目立つようになってきています。
各事業所における防災対策についても改めて点検し安心・安全を担保するとともに、地域社会における防災拠点としてもその機能を最大限に発揮できるよう不断の備えを怠ることのないように心がけていきましょう。

今年は、公正確保の根幹である禁止薬物の問題にも触れておかなければなりません。
私が理事長に就任した2014年の12月に海外から輸入された飼料が原因で禁止薬物を摂取した競走馬が1位で入線したものの事後に失格となる事案がありました。
その際に、禁止薬物の検査体制について見直しを図ったにもかかわらず、僅か5年で同じような事案が発生し、お客様をはじめとして多くの関係者にご迷惑をおかけしたことについて、改めて深く反省をするとともに私自身、重く責任を感じております。
確かに毎日毎日、膨大な量の飼料を供給する体制とその適正性を管理する体制には相克があり、非常に困難な問題があることは理解できない訳でもありません。しかしながら、そのことを理由に私達が管理するきゅう舎内に禁止薬物を含む製品が流通する状況が許容されるということでもありません。一日も早く体制を整備する必要がありますし、関係部署においては規定類の整備も含めて早急な対応をお願いします。

まだ年半ばではありますが、今年はターフを賑わせ多くの競馬ファンに夢と感動を運んだ名牝・名馬が亡くなっています。なかでも競走成績だけでなく、種牡馬としても国際的に名を残したディープインパクトについては、その名声を長く後世に伝える責務が私達にはあるものと思っております。競馬の魅力の一つにはブラッド・スポーツと表現されるように「血統」があります。同馬が世界に残した蹄跡を讃えるだけでなく、競馬の持つ様々な魅力を社会にアピールするという視点からも必要な対応を行っていきたいと考えております。

さて、話題は変わりますが間もなく10月1日から消費税が2%増率されます。軽減対象もありますが、消費税の増率が消費者のマインドや行動にどのような影響を与えるのか、私達は慎重に見ていく必要があるものと捉えております。勝馬投票券(馬券)に関しては消費税の対象外ではありますが、馬券購入が一般的な消費行動と連動する可能性はあるものと捉えております。
さらに、これももう間もなく、と言いますか明日20日から11月2日までの間、この日本を舞台にラグビーワールドカップが開催されます。こうした世界的なスポーツイベントも私達の業績にいささかの影響を与える可能性があるであろうとも考えております。
なお、来年に目を転じますと2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会も10ヵ月後に差し迫ってきています。来年の7月24日から8月9日までのオリンピック開催期間中は、都内の交通網も相当の規制がかかる模様ですし、このことは私達の業績のみならず競馬開催日程にも影響を及ぼすであろうと捉えております。
また、私達の都合ではありますがおよそ1年後には京都競馬場の改修工事の着工も予定していますし、このことも秋以降の競馬開催日程に影響するところでもあります。

今年の業績はこれまでのところ極めて順調に推移してきているところであります。もちろん、この背景にはお客さまをはじめとした関係者の皆様のお支えと、そのご期待に応えるべく関係する団体も含めたJRAグループのたゆまない努力の結果と受け止めているところであります。
個別には申し上げませんがこれまで取り組んできた様々な施策効果の表れでもあります。したがって、現在の結果に対して皆様には自信を持っていただきたいと思っております。
ただ、この秋以降来年に向けて、私達を取り巻く環境は決して容易ではないものと受け止めております。

そうした中で、今現在、大規模な施設改善に取り組んでいるところでもあります。
先ほども触れました、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会に関しましては、馬事公苑の第一期工事が終了しております。8月12日から14日にかけて、テストイベントも行われ関係する皆様からは好評を頂いたようであります。現在、組織委員会によるスタンド等の仮設工事が引き続き行われておりますが、細心の注意をはらいながら無事に本番が迎えられるよう進めていきたいと考えております。
また、美浦トレーニング・センターのきゅう舎あるいは馬場改修工事も着々と進んでいるところであります。つい先日、馬場改修に関しましてはウッドコースが新装なったところであります。天候の影響もあり、工期ギリギリの竣工になりましたが、幸い関係者には高い評価を受けているようで安堵しております。引き続き、坂路の改修を含めて長期間の工事が予定されておりますが、事故の無いように進むことを願っております。
さらに、京都競馬場のスタンド等改修工事についても先般お知らせをさせて頂いたところであります。こちらの方も、一定期間の工事となるため開催日程等にも影響を及ぼすことになりますが、関係者の皆様の意見も聞きながら最善の工事となるように進めて行きたいと考えているところであります。
この他にも現在取り組んでおりますウインズ札幌A館の改修工事等も含め、これから暫くの間は大規模な設備投資が続きます。
何れも、これから先のJRAの事業運営を円滑に運ぶために必要不可欠なものであります。
今しがた述べたように、この秋以降、来年に向けてJRAを取り巻く経営環境は決して楽観視できるような状況ではありませんが、お客様あるいは関係者が安心・安全な環境で競馬を楽しみ、そして競馬に専念できるためには必要な投資であります。
関係者全員がより一層、力を合わせて将来の礎をしっかりと築いて参りましょう。

平行してJRAあるいは競馬産業の基盤をより強固なものにしていくために、そして将来に亘って安定的・持続的に発展していくために、これまで販売促進や参加促進に関わる施策と比較すると、ともすると副次的な施策と捉えてきた環境対策・社会貢献・馬の福祉等の課題にも大きく目を見開いて正面から取り組んでいく必要があるものと考えております。

時代は常に変化し、時として劇的に変化することもあります。的確に時代の潮流を見極めながら、これからの競馬の在りようを皆さんとともに築いていきたいと考えています。
一方で何時も申し上げていることですが、私たちJRAは競馬の開催を通じて夢と感動をお客様に提供することで成り立っている組織です。皆様方におかれましては、競馬という素晴らしいエンターテイメントを提供できるよう、将来にわたって競馬のみならず様々なことに夢をはせながら業務に当たっていただけたら幸いです。
諸先輩方を始めとして本日ご臨席の皆様方におかれましては、今後とも変らぬご指導、ご鞭撻をいただきますようお願いいたします。
最後になりますが、皆様ご多忙のところご出席を賜りましたこと、重ねて御礼を申し上げるとともに皆様のご多幸・ご健勝をお祈りしつつ、私からの挨拶とさせていただきます。

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